第63回(2019/12/06)
2019年11月9日(土曜日)に都市センターホテルにて第28回日本脳神経外科漢方医学会が日本医科大学脳神経外科の主任教授である森田明夫先生が会頭で開催され、過去最高の参加人数を記録しました。今学会の初めての試みとして午前中に漢方初学者のための実技指導つきの入門セミナーが行われました。そこに光栄にも講師としてお呼び頂き座学と実技指導を行ってきました。
この日は天皇陛下の即位を祝うパレード(祝賀御列の儀)を翌日に控え、都市センターホテルのある皇居周辺は厳戒態勢でした。セミナーは朝早くからにもかかわらず満員で、参加者の募集段階で早期に定員に達し、参加を制限する程であったと聞いております。
私が脳神経外科で頭痛治療に漢方薬を用い始めたとき、漢方薬を使用する脳神経外科医はごく少数でした。漢方薬を使用している私は当時周りからはどちらかといえば「変わり者?」みたいな扱いでした。しかし、今はほとんどの脳神経外科医が漢方薬の有用性に気付き、使用する時代になってきています。
ただ、これには少し問題点もあって、多くの脳神経外科医は当初の私がそうであったように、西洋医学的な漢方薬の使い方をしています。例えば慢性硬膜下血腫の予防に五苓散というように、その病名に応じて一種の約束事のように漢方薬を投与する(これを病名投与と言います)やり方が行われています。
もちろんこのやり方でもうまくいく場合も多いのですが、本来の漢方薬は病名ではなく、その人の状態、これを漢方では証(しょう)と呼ぶのですが、その証に応じて漢方薬を使い分けます。だから例えば西洋医学では頭痛には頭痛薬(解熱鎮痛剤)と病名が同じであれば、どの人でも同じお薬になりますが、東洋医学では同じ頭痛でも人によって使用する漢方薬が違ってきます。これが証に応じた使い方です。この証に応じた漢方薬の使い方ができる脳神経外科医はまだごく少数です。
この証に応じた使い方をする漢方の診断方法のひとつに腹診があります。つまりお腹を診察する必要があるのです。私の外来に頭痛で通院してくれている患者さんは「なんで先生は頭痛で通っているのに、いつも私のお腹を診察するのだろう?」と疑問に思っている方もいるかもしれませんが、それは証に応じた(その人にあった)漢方薬を探すためです。皆さんは脳神経外科を受診されて、お腹の診察を受けたことがありますか?たぶんほとんどないでしょう。つまり普通の脳神経外科医はお腹の診察に慣れていません。研修医以来、お腹を診察していない脳神経外科医がほとんどです。
これをどうにかしようという意図もおそらくあったのだと思いますが、森田先生の発案で今回実技指導のセミナーを開催しました。漢方初学者のための入門セミナーと案内状にはありましたが、こられた先生方は若い先生方よりも、むしろ大きな病院で指導的な立場にある先生方が多くこられていました。つまりこれから先、この腹診の実技を学んだ先生方が現場で若い先生方に漢方の本当の診察の仕方を指導する時代がくるのです。そして、10年先か20年先か、あるいはもっと早くかはわかりませんが、今私がやっているように脳神経外科医が普通にお腹も診察して漢方薬を処方する時代がくるのではと期待しております。私がそのお役に少しでもたてれば、こんな幸せな事はないと思いますし、私に漢方の診療を指導してくれたお師匠方にも恩返しができるのではと考えている今日この頃です。
それで、その日の夕方18時頃に学会が終わって、翌日に浜松での講演が控えていたため、移動のため東京駅にむかったのですが、ちょうどその時間天皇陛下即位を祝う国民の祭典で嵐が奉祝曲を披露している最中で、皇居前はDJポリスが出動するほどの人盛りで新幹線に間に合うのか心配しましたが、無事に間に合い浜松に移動する事ができました。
その夜は濱松たんとという居酒屋で「やらまいか!」「おいしょお!!」のかけ声で漢方の発展と普及を願って杯を交わし、翌日の講演に望みました。 この講演にはいろいろな科の先生が来てくれたのですが、ここでも腹診の実技を行いました。つまり将来、脳神経外科だけではなく、耳鼻科、眼科、皮膚科などすべての科で腹診をして漢方を処方する時代がやってくるのかもしれませんね。
最後に、入門セミナーの講師として私を呼んでくれた日本医科大学の森田先生、浜松での講演の準備をしてくれた現地のスタッフの皆様、土曜日の朝早くから入門セミナーにご参加頂いた先生方、せっかくの日曜日に講演にご参加いただいた先生方に、この場をかりて感謝致します。