第23回(2016/08/06)
8月に入ってやっと梅雨もあけましたが、これから本格的に暑い日が続きます。
この季節気をつけないといけないのが熱中症です。
屋外での運動や作業中が危険と思われがちですが、高齢者や若い人でも体力が衰えている場合には車中や家の中でもおこる可能性があります。
熱中症の症状は食欲の低下や足がつるなどの軽度のものから頭痛、吐き気、全身の倦怠感などをしめす中等度のもの、けいれんや意識障害などを生じ場合によっては命の危険もともなう重度のものまで様々です。
対処法としては高温下での運動や重労働は控える、扇風機や冷房を上手に使用する、水分や塩分、ブドウ糖などを含んだ経口補水液などでこまめに水分補給をすること、バランスのとれた食事でタンパク質やミネラル、ビタミンをとることです。
それから私の秘密の夏ばて対策をお教えしますね。それはお風呂に入ることなのです。
暑いからといってシャワーですませずにバスタブにお湯をためて入浴することが大切です。
これは汗をかいて、また暑さに体を慣れさせるという意味と冷房で冷えた体をあたため血行をよくし、疲労を回復させる作用があります。
少し前の話になりますが「テルマエ・ロマエ」という映画を観てきました。
これは古代ローマ帝国の浴場設計技師が、日本の銭湯にタイムスリップし、日本の風呂の文化に感銘を受け、そこで得られたアイデアを古代ローマに持ち帰り一躍有名になっていくというとても面白い映画でしたが、その中でも戦闘で傷ついたローマ兵を温泉施設で癒す場面がでてきます。
このようにローマ帝国時代でも「湯」は健康法として認められていたのですね。
また我が国でもその昔、湯熊灸庵(ゆのくまきゅうあん)とあだ名された名医がいました。
この名医とは「百病は一気の留滞から生じ、順気をもって治療の綱要とすべきという“一気留滞説”」を唱えた後藤艮山(ごとう・こんざん)(1659−1733)先生です。
後藤艮山先生は古方派(漢方の流派のひとつ)の祖とされている人物ですが、必ずしも傷寒論(しょうかんろん:漢方の教科書のような本の名前です)のみを金科玉条とせず、唐代の医方からいわゆる民間療法(今で言うself medication)である温泉、熊胆、灸、番椒(ばんしょう=とうがらし)などの民間薬を多用したことでも有名です。そのことから湯熊灸庵というあだ名がつけられたのですね。
また後藤艮山先生は湯治だけでなく、食事療法や運動療法も推奨されています。
赤蛙やカワウソ、鰻などを食して身を養うことをすすめ、一回の肉食は十回の野菜や三服の薬よりも大益があること、脳卒中などで身体が不自由になったものは安居するだけではいけない、人に助けられても、よく運動を行えば、天寿を全うできるものだということなども艮山先生の弟子が書いたとされる『師説筆記』に出てくるのです。
この『師説筆記』を読むと、艮山先生が今日でいう「未病」を治す、すなわち病気になる前の養生が第一という点がいたるところで述べられていて、現在でも全く色あせないどころか、現在こそ重要視しないといけない大切な点が述べられているのですね。
ところで現在では日本全国の有名な温泉の成分の入浴剤を簡単に入手することができますし、その他にもいろいろな種類の薬用入浴剤があります。オリンピック選手でも入浴剤を海外にもっていくというくらいですから入浴剤の効果はすごいのですね。
もちろん現地に行ったわけではありませんが、先日は私は登別の湯に入りました。このように皆様も入浴剤やたまにはお風呂にお湯をためてゆっくり入浴することで夏ばてを解消されてください。
それでもおつらい場合には夏ばて解消の漢方薬もありますので、ご遠慮なくご相談ください。
当院では冷房の設定が28度のため、中には暑く感じる方もおられると思いますが、そのような方のために扇子をご用意しておりますのでご遠慮なくお使いください。
私も診察室では岐阜で購入した水うちわを使用しております。扇子、うちわで暑さを仰ぎ飛ばしてこの夏を乗り切りましょう。